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2018-07-10

ヒメホタルが照らすペルシアへの道〜マンボの謎を解く〜

最初に頭をよぎったのは、本題に全く関係がないこんな軽い疑問だった。

「今年は普段よりも家で見るホタルの数が多かったのはなぜだろう。」

わんこと散歩していても、ここ数年は目を凝らして田んぼの用水路などでじっと目を凝らしてしばらく見ていなければ見つけられなかったものが、今年は飛ぶ飛ぶ。「あくがれいずる魂」とはよく言ったものだなと思ったのだった。夜になったばかりの、薄暗がりの雲がまるで藍染の模様のように広がる空の中を、ふわふわ、ふーわふわと、ゲンジよりも小さな小さなヒメホタルがきらめきながら誘うようにゆるゆる天に昇っていく。その後、餌をやり、縁側で猫と一緒に空を見ていると、そのままお姫様たちが濃い闇の中で光る星々に吸い込まれていくように見えて、とても幻想的だ。儚くて、美しい光が夜の星に混じり、溶けていく。かぐや姫か笑。

母になんとなくその話をしてみたところ、「今年はうちがやっと水道工事を終えて、もう生活用水を地下から直截組み上げなくなったせいじゃない?」と言われた。「地下水を(電気で)組み上げなくなる」=「水流が頻繁に起きなくなる」=「貯水地に蛍の幼虫が安心して生育しやすい」=「成虫するホタルの数が増える」ということなのだろう。なるほど、なんだかわかったような気がする。

でも、待てよ。これを読んでいる人はおそらく地下水というと「井戸」を連想すると思う。私もなんとなくそう思っていた。しかし、いままで30年以上生きてきて身内の誰も「井戸」と呼んだことはない。確かに井戸らしいつるべや囲いもなく、岩のくぼみに縦に底が深い貯水池があり、そこに水が湧き出ている。その場所の水を、みんな「マンボリの水」と呼んでいる。その清水は、その貯水池に溜まる他に、先日話題にした氷室にも流れている。

▲外から見た入り口。

▲中は、かなり深いと聞いている。

我が家の立地は先日話した通り「龍穴」にあたるので、水にまつわる話が多い。
「龍穴」な神社と「龍穴」な家。

それはそういうもんなんだろうなと思っていたし、それで別に困ることがあるわけでもないため、私も今まで疑問に思わなかった。しかし中央アジアとペルシアに行って、奈良とシルクロードの関連性を調べていた時に思わぬ形で謎が再燃したのだ。

砂漠地帯が多く雨の少ないイランには、貯水のために「カナート」と呼ばれる大規模な水利施設が発達していた。今の地下水道の役目を果たすもので、水源となる山麓の井戸に貯めた雨水を、人工的に横穴を掘って中心部に生活用や農業用などとして水を運んでいた。最長70キロにもなるという話もある。これほどまでに、大規模かつ長距離な用水路を国のインフラとして作ることができ、さらに完成後も安定的に送水できたのは、ペルシア帝国の広い領土と治安の良さと大量の資金と労働力という前提条件が揃っていたためだと思われる。

そのペルシアが砂漠に築いた「カナート」の発祥の地ヤズドにある「水博物館(Water Museum)」を訪れた。日本のガイドブックには載っていないが、私が下調べをしていてめちゃくちゃめちゃくちゃ興味があったところであった。そこで見たカナートの仕組みは、その前にウイグルの旅で学んだウイグル版水利施設「カレーズ」と基本的な仕組みはほぼ同じであった。そして、カレーズは、ペルシアのカナートがシルクロードを伝わってできたものだと知った。

2018年 Water Museumへ行く前に!見どころをチェック – トリップアドバイザー

カナートの説明をブリタニカで調べると、以下の通りだった。

アフガニスタン,トルキスタンではカーレーズ,シリア,イラク,北アフリカなどではフォガラと呼ばれる。西アジア乾燥地帯に行われる特殊な導水設備。自然の泉の水か扇状地や涸れ川 (ワディ) の河床など比較的地下水面の浅い部分に特別に掘った井戸の水を,必要とする地点まで導くもので,20~30mおきに竪坑を掘り,各坑底をトンネルで結んで導水する。古代ペルシアに起り,その後ペルシア,アラビア勢力圏の拡大,東西文化の交流に応じて旧大陸の乾燥地に広く普及した。単に灌漑にだけ用いられるのではなく,都市への給水も行うものであって,テヘランなどでも近年までカナートの水が利用されていた。

なるほど。

念のため、wikipediaで「カナート」を調べて見るとこうなった。この後の展開に必要なのでぜひ読んで見てほしい。
(ここまで言っておいてなんですが、スーパーの「カナート」ではありません笑)

カナート – Wikipedia

ココで面白いのが名称の変化だ。
ペルシアの「カナート」をはじめとして、順番にいくと、

中央アジア(ウズベク・カザフ・アフガンなど):カレーズ

新疆ウイグル自治区:カレーズ、カリーズ

中国:坎児井(カンアルジン)

日本:マンボ、マンボリ、マンボウ
(東海地方、愛知県・三重県に主に多い人工地下水路。「間風」、「間歩」、「万堀」などとも綴られる。水田かんがいの他、生活用水や酒造用にも使用され、江戸時代から大正まで掘削されたが、農業用水施設の整備にともない減少している。)

うー、マンボ!!!!

いや、ビンゴ!!!!

とか言ってる場合じゃなくて(笑)、

奈良の私のマンボリはここでペルシアとつながるのかーーーーーーーーーー!!

と、明日になったらトリになっているんじゃないかと思うくらい鳥肌が立ったのだ。

えええええええええ、じゃあ私が今まで何も疑問に思わなかった「マンボリの水」は、私が去年行ったペルシアのカナートから伝わった技術だったかもしれないのーーーー!? うわわわ何それ、鼻血やん。やっぱりトリになってそうやわ。どうしよう、明日は奈良でペルシア映画祭なのに笑。今日そんなことに気づくなんて運命か!?

さて、チキン肌と血抜きが一旦落ち着いたので冷製で調理すると、いや、冷静に考慮すると、wikipediaがどこまで信用できるか眉唾ものであるが、「江戸時代」というのが気になった。他にもいくつかウェブをしらみつぶしに確認して見たが、奈良時代に同様の施設を、「東大寺の(若狭からの)お水送り」と「ヤフチャール(氷室)」以外に採用したという話も聞いたことがない。そして、名前がなぜ中国の「カルアンジン」やウイグルの「カレーズ」っぽくない!? このままいけば「カルーア」ぐらいにはなりそうなのに。調べて見ると、マンボやマンボリの語源は一説には「まぶ(間府)」という鉱山の坑道の名前から来ているらしい。あと、その坑道、水路、という流れで、兵庫県の西宮で「マンボウトンネル」と呼ばれている背の低いトンネルがあるようだ。

「マンボウトンネル」をくぐってみた!! – まちNAVI from risola

それはさておき、

もしかして当時は日本には文化だけで実際の技術としては伝わらなかったのだろうか?(お水取りの文化も、リアルに水を引くとなるとペルシアの70kmよりも長い90kmレベルのチャレンジになってしまう。いくらペルシア人の役人が平城京に勤めていたからってここまでの技術を日本で再現できるものだろうか。。いやまてよ。別の方向から考えてはどうだろう。当時は日本では普及せず、技術が後世に持ち越されるような理由があるとしたら。日本や中国の東側は必要がなかったということだ。

イランにあって、中央アジアにあって、ウイグルにあって、中国の西側にあって、日本にないもの。。。
イランにあって、中央アジアにあって、ウイグルにあって、中国の西側にあって、日本にないもの。。。

あった。
「砂漠」だ!!!!

普通に考えればわかることでもあるが、日本は雨や緑に恵まれているのでそこまで長距離の灌漑施設を頑張って作る必要がない。せいぜいが近くの山麓からの農作業用に引く水路だ。必要以上に生産量を上げようとさえしなければ、基本的にはあまり生活には困らないはずだ。いやいや、果たしてそんな安易な考えに逃げていいものだろうか。そこに落ち着いてしまうと、江戸時代になってからわざわざ三重県や愛知県でマンボをフィーバーした理由がわからなくなってしまう。必要性があったのだ。何らかの確実な。この疑問は今考えているとトリの干物になってしまうので次回に回したいと思う。(とかなんとかいいながら、奈良盆地っていう地形と、そこの四方を囲むようにして鎮座する水分神社の存在を考えると何か「カルーア」的な水路文化の関わりがあるような気がしてならない。)

とにかく、真偽はどうあれ、私の住む奈良東部では、あるいはわたしのうちでは「まんぼり」と呼んでいて、それは確かによく見る井戸ではなくて「素掘りっぽい感じがする、手仕事に近い貯水池であり、そこの水が必要以上に流れたり動くことがなくなったために、ホタルの数が増えて、風光明媚にまたなったのだ。そしてそのマンボリは、プチカレーズということでペルシアの文明の名残を写すものであった。」ということにしておこう。

イランのお正月の習慣のハフトスィーンに用いられる金魚と金魚鉢の話もそうだけど、奈良ってどんだけペルシアネタあるのよ!!!笑
これで、姉妹都市が一個もないとか本当意味わかんないから笑。文化交流は今でもあるようなんだったら、いつか締結してくれたらいいのに。

そんなわけで、うちの家は現代社会ではなかなか出会わない色々なことが時空を超えて体験できます笑。

マンボリの入り口は、ほらすぐそこに。

 

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