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2017-09-10

スパイスソムリエ、日本最古の薬草文化の謎に触れる。

奈良県宇陀市の松山地区は、江戸時代から明治時代に建造された商家や町家などの伝統的建築物が数多く残る町並みが残っており、2006年に重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。その町家の数、約200棟が昭和戦前に建造されたものらしい。松山は、戦国時代に「宇陀三将」と称され、秋山庄・荘官から国人領主となった秋山氏の本城・宇陀松山城の城下町として栄えたのが最初と言われており、その後、豊臣家配下の大名によって拡大整備が行われた。江戸時代には幕府の天領となり、近畿の四方を流れる川や街道の中心に位置する交通の要衝として「宇陀千軒」と呼ばれるほど栄えた。明治時代以降も郡役所や裁判所が置かれ、近代的な洋風建築の郵便局や病院などが建てられ、郡の中心地として昭和40年代頃まで賑賑わったと言われている。

さらに時代を遡ると、日本書紀にも出てくるような薬狩りの地の宇陀は、その産業からロート製薬、ツムラ(旧津村順天堂)、アステラス製薬(旧藤沢薬品)など製薬会社の発祥地であることから、生薬問屋の町家が連なっている。今でも、森野旧薬園や、藤沢薬品創業者の生家を改装した資料館「くすりの館」などから当時の様子が生き生きと伝わってくる。森野旧薬園は、現存する日本最古の私設薬園で、江戸幕府8代将軍徳川吉宗が推進した薬種国産化政策の国家プロジェクトとして薬草栽培の拠点であった。当時、葛の生産に取り組んでいた森野家当主・森野通貞が幕府の採薬使であった植平左平次とともに薬草の収集にあたり開設。その時に、最初に外国から導入した種苗を幕府から下賜されたという6種類の薬草がいまも展示されている。6000㎡ほどの面積の土地に、250種類の薬草が植えられていて、薬にまつわる資料館もあり、今でも300円を払えばどちらも入ることができる。薬草園は軽い登山のようで歩くのが大変だが見応えがあり、さらに小高い丘にある東屋からは宇陀の町並みを一望に見渡せる。

薬草に関する資料館。見応え十分。

 

薬草園の入り口。

いろんな種類があるが、雑草と見分けがつかないものも多い。

薬草園の全体像絵。広大な土地と起伏なので、全て回ろうとすると軽く登山になる。昔の家も残っており、丘からの街を一望できる景色は風光明媚である。

「松山本草」。一つ一つ薬にまつわる素材や薬草を記載したもの。

動植物を記載したページもある。

クジラとシャチまで。しかし、なんかかわいいなw。

さて。さらに時代を遡って611年の推古天皇の時代に、宇陀の菟田野では薬狩りが行われたと『日本書紀』に記されている。薬狩りとは、強壮剤とされた鹿茸(ろくじょう)という若い鹿の角を取る狩りのこと。男性は狩りを、女性は薬草を摘んだとされる。

 

さて、ここでクエスチョンである。
「なぜ、他の場所でも栽培できるはずの薬草がこの地で特に栄えたのか?」

 

答えは前々回のブログにある。
そう、神武天皇が東征ルートで通った道と同じ場所にあった「辰砂」だ。

水銀が採取できる「辰砂」が不老長寿の薬として信じられ、重宝されてきたことは前々回に熱く語った。
(中国医学では「朱砂」や「丹砂」等と呼び、鎮静、催眠を目的として、現在でも使用されている。有機水銀や水に易溶な水銀化合物に比べて、辰砂のように水に難溶な化合物は毒性が低いと考えられている。)そんな不老長寿の薬とされていた鉱石が採れる場所で育つ薬草や、動物、清水を口にすることは、高い薬効がある(不老不死に少し近づける)と信じられていた。辰砂が採れる土地に育つ生き物、それそのものが一級のブランドだったのだ。その意味では神武天皇の東征時代から、この地一帯は薬を支えていく運命にあったのだと思われる。

上記のような歴史から薬売が発展したため、この地が江戸時代にあっても徳川光圀公の薬草栽培の国産化推進の主要拠点となった。(当時の薬草はほとんどを中国から輸入していたが、とても高価であったため、光圀公が国産化を目指すこととし、その場所を薬にゆかりのあるこの土地とした)。

面白いもので、徳川氏の直轄領となる前には、豊臣の土地であったし、さらに秋山城のある秋山藩の藩主は織田信雄だった。その意味では時代の人の3人と縁のある土地だとも言える。さらには、江戸、大正、昭和の建物が残って並んでいるのも面白く、昔からタイムスリップの旅をしているような気分が味わえる。
実家で調べたところ、薬草園と私のすごい繋がりがあることがわかって衝撃だったのだが、それについてはまたの機会に語りたい。

ちなみに、母方の実家では大阪で薬屋を営んでいたため、母親もわりと生薬に詳しい。私はシルクロードイスラム文化への興味からポータブルな体調管理ツールであるスパイスの世界へ入った。そのため、二人の会話はしばしばとてもマニアックになることがある笑。

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